このシリーズはTwitter上で発生した #狐面村 に基いて作られています。 狐面村 企画主様 @komen_mura http://twpf.jp/komen_mura |
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三色目:つきいろ この村は平和だ。 今日のような暑くも寒くもなく、心地良い風の流れる日なんていうのは絶好の散歩日和。 ここ狐面村で紙文具店を営んでいる香墨(かすみ)は、ご明察の通り散歩をしていた。 店で飼っている”カミ蟲”に喰われた面から覗く口元は楽しそうに口笛を吹いている。 「〜♪」 「香墨さん。お散歩ですか?」 ふらふらと甘味処へ辿り着くと、迎いの交番から声をかけられた。 村唯一の交番で働く狐月巡査(@k_beans_)だ。 「うん、いい天気だしねぇ」 「本当に。今日の空なんて、香墨さんのところにある青いインクにちょっと似てる気がします」 「あー…。巡査は抜けてるように見えてやっぱりお巡りさんなんだねぇ」 「? どういう意味ですか?」 「褒めてるんだよ」 意味を教えるのも面白く無いので、香墨は適当に誤魔化すことにした。 店先でみたらし団子を2本買って、1本を狐月に差し出してみた。 「いえ、今は勤務中なので」 言葉とは裏腹に、その音の中にはヨダレのせいで水音が混じっている。 「そうだ、実は万年筆の調子がちょっと良くなくて…」 「なんだって?! それはいけない。すぐに見せて!」 団子を頬張っていた香墨の顔色――と言っても面で実際は見えないのだが――が変わる。 狐月は緊迫した空気にのまれ、駆け足で自分のデスクから万年筆を持ってきた。 指示されたZ字の形をしたライトも用意して明かりをつける。 「書けないわけじゃないんですけど」 見てみると、文字を書く時や書いてる途中でインクが出なくなってしまっている。 途中狐面が邪魔でふと取ろうとするが――。 「っと…ここは家じゃなかったね」 「香墨さんはよく面をとるんですか?」 「作業する時は邪魔でね。慣れたとは言えほら、視界が狭くなるから」 「香墨さんはまだ日が浅いですもんね」 「君たちはよく面をつけたまま走ったり出来るなぁと関心するよ」 ひとしきりペン先を観察すると、パチリをライトの電気を消した。 「とりあえずペンは借りてもいいかな。今は道具がないから。今晩にでも来てくれたら使えるようにしておくよ」 「本当ですか? ありがとうございます!」 「ああそれと」 その続きが中々こない。 面をつけていても分かる視線は、狐月の額に注がれている。 紺色の面に輝く三日月。 「?」 「巡査はオレンジや黄色系のインクは使ったりするかな?」 「黄色系ですか? マーカーとかは使ったりしますよ」 「そう。じゃあこれは借りていくね」 大事そうに狐月巡査の万年筆を手ぬぐいで包むと、香墨は交番を後にした。 日は沈みまあるい月が空を照らす頃、狐月は桜花とバトンタッチをして香墨の店へと向かっていた。 今日はいつもより月明かりが暗い。 そんな日もあるだろうと思いながら、店の戸を開けた。 「こんばんは」 「いらっしゃい。ペン出来てるよ」 蝋燭に照らされた店内は暖かい光に満ちていた。 ショーケースの上に置かれた台の中に置かれたペン。 灯りのせいか、いつもより艶やかに光っているように見える。 「巡査はいつもこれを使って仕事してるの?」 「はい、これで書くと日報もするする進むんです」 「通りで良いペン先になってるはずだ。ちょっと掃除もしておいたから。また元の様に使えるはずだよ」 渡された紙にペンを走らせてみると、確かに以前のように滑らかに文字が書けるようになっていた。 「わー、ありがとうございます」 「いやいや、こちらこそ。使ってもらえるのが何より嬉しいからね」 狐月が書いた文字が少しずつ消えていく。 どうやらカミ蟲がおやつに食べているようだ。 カミ蟲は文字を食べて生きていると香墨から聞いている。 その様子を見て狐月は微笑み、”こんばんは”と文字を書く。 もぞもぞと”こんばんは”が動いたかと思うと、楽しそうに回ったりジャンプしたりした後ゆっくりと消えていった。 「あー、巡査」 「はい?」 「そのー…使うか分からないんだけど、コレあげるよ」 コトッと置かれたのは、小さな深い紺色の箱。 狐月に尻尾があったらぶんぶん振っているであろうオーラが、面越しに伝わってくる。 「開けていいですか?」 「どうぞ」 少し重みのある箱を慎重に開けてみると、中には仄かに輝く液体が入っていた。 「なんですか? これ」 「お昼に言ってたインクだよ」 「え? でも光ってますよ?」 「書くと光らなくなるんだけどね。ちょっと珍しいものから作ってあるんだ。物自体は珍しくないんだけど〜、なんて説明したらいいのかな。巡査が好きそうなものから作ってあるから、貰ってくれると嬉しいんだけど」 少し困ったような声音で言う香墨をおかまいなしに、狐月は小瓶を掲げ光にかざしたり手で覆って暗くして覗いてみたりしている。 「うわぁ、すごい綺麗です! 何に使おう。あ、でも書いたら光らなくなるんですよね。じゃあ昼間に使っても大丈夫かな。光るインクなんて初めてみました」 喜んでもらえてホッとした香墨は、不意に店の灯りを吹き消した。 満月でも今宵は灯りが弱く、店内が仄暗くなる。 二人の周りだけは小瓶からの灯りで影ができた。 「まるでお月様みたいですね」 「そうだね」 「月といえば、今日は満月なのにちょっと暗いですよね」 「ああ、それは僕のせいかも」 「何かしたんですか?」 「ないしょだよ」 悪戯っぽく口元を歪ませた香墨は、光る小瓶をそっと箱の中に戻したのだった。 -end-
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