*残暑お見舞い*
 THEINTERVIEWS 「フリー小説」 グループインタビューにて



 蒸し暑い熱風が掻き回される。8月の安アパートは蒸し風呂も当然。昨今の暴力的な気温の上がり方は、扇風機程度でどうにかなるものではない。武藤幸子はパンツ一丁という、なんとも男らしい姿で寝転がっていた。この部屋で布を身につける程バカな行為はないと思っているからである。
「あ〜あっつーい。死ぬ―」
 少しでも冷たい面を求めごろんごろんと転がっていると、ペタリと何かが腕に張り付いた。
「…なんだ、恵子からのか」
 1枚の残暑お見舞い。ビニールプールで水遊びをしている子供が写っている、それはもう幸せそオーラの漂うものだった。一番下に小さく『元気してる? 旦那は相変わらずよく食べるのかな。また今度みんなで食事しようね』と書かれている。
「けっ、『旦那』ね。そんなもんいないっつーの」
 腹いせと言わんばかりにくしゃくしゃに丸め、幸せの塊をゴミ箱に投げ入れた。ゴミが山を成しているゴミ箱に入るわけもなく、虚しく床に転がり落ちる。それがまるで自分の様で、幸子はふんっと鼻で笑った。後ろに倒れこむと、天井に貼られた美青年のイラストが目に入る。
「リョー君はぁはぁ。カッコイイお」
 優しく微笑みかけるキャラクターに目一杯両腕を伸ばすも、届くわけもない。
「リョー君はあたしを見捨てたりしないよねっ。ずっとずっと一緒だよ?」
 美青年の描かれた抱き枕に、この部屋よりも熱い接吻を何度も何度も繰り返す。

 彼女の部屋には夕日が射し込み、くすんだ3つの指輪が鈍くそれを反射していた。


-fin-